どんなに驚く出来事があっても、毎日は変わらずに進んでいく。


「……朝乃」


 田中先生による数学の授業をぼんやりときいていると、ふいにとなりから声をかけられてびくんと肩が震える。


「これ、落ちたよ」

「あっ……ありがと」


 出来るだけ目を合わせないようにしながら手を伸ばすと、ひょいっとかわされてしまった。


「え、ちょっと」

「なか、見てもいい?」

「だめだよ。返して」


 とは言ったものの、水谷くんのほうを一度も見ていないから何の紙かまったく分からない。

 けれどいま水谷くんと目を合わせたら、きっともう後戻りはできないような気がした。


「朝乃、こっち向いて」

「や、やだ」

「じゃあ中身、見せてくれたら返してあげる」


……どうせ大したものじゃないだろうし、目を合わせるよりはマシ、か。


 そう思ってこくりとうなずいた私。



が、いけなかった。