「おはよう、朝乃」
「お、おはよう……」

 一緒にクレープを食べに行ってからというもの、私たちの距離は縮まる……ことはなくむしろ遠くなった。

 なぜなら、私が一方的に避けているから。


 あれ以来、水谷くんの顔を見ると心臓がドキドキして、ううん。

 ドキドキなんてものじゃなくて、ドコドコドコドコ暴れ出して苦しくなるし、勝手に赤くなっていく耳は隠せないし、なにより身体も心もおかしくなってしまうから。


 目が合ったら頬がだらしなく緩んでしまうので、極力目は合わせないように。

 かと言って無視もできないから、中途半端な返事だけ。



「ねえ、朝乃」

「…なに……?」

「こっち向いて」

「え、なんで」


 向いてくれないから、という声とともにぐいっと掴まれた肩。


「っ……!」


 反射的にかちあった、瞳。

 体温が上昇していく。



「俺、朝乃に何かした?」


 水谷くんは、悲しそうだった。


「ち、ちちち違うの。私の問題だから、水谷くんは関係ないから!!」


 バッビューンと教室を飛び出して女子トイレに向かう。


 鏡の前には、ほんのりと顔を紅潮させる女の子がいた。


(リップ、塗ってみたんだけどな……)


 少しでも、と思って。

 ん?
 少しでも、なに?


「おかしいな……しっかりしろ! 私!」


 パンっと頰をたたいて気合いを入れる。