朝6時、アラームを止めて寝室を出る。
昨夜も書斎で寝ていた颯太は、廊下からリビングへ入って来た。
「おはよう」とよそよそしく挨拶を交わし、颯太が支度をしている間にいつも通りコーヒーの準備をする。
テーブルにマグカップを置きながら何気なく彼の顔を見て、違和感を覚えた。
面と向かって彼の顔を見ることなど、最近は全くない。
けれど…どこかがおかしい。
新聞に目を落としているのに、その文字を追っていないように見える。

「大丈夫?」

私の唐突な言葉に顔を上げた颯太が、不思議そうに私を見る。

「何の話だ?」
「ううん。なんとなく」
「何も問題ないよ」
「そう」

彼は再び新聞に目を落とす。
考えすぎだろうか。
声をかけて集中力を削いでしまって申し訳なかったと反省した。
颯太はコーヒーを飲み終えたあと、いつも通り出勤の準備を始める。

「行ってくる。今日も遅くなるから、夕飯はいい」
「うん、行ってらっしゃい」

夜遅くなるのも夕食が必要ないのももう毎日のことだから、わざわざ言わなくてもわかる。
出勤時の定型文のようなものだ。けれど、そのたび寂しい気持ちになる。
本当は私が見送る必要ももうないのかもしれないと思いながら、視線を合わせない彼を玄関で見送った。