私も寝室を出てコーヒーメーカーをセットする。
洗顔を済ませ、颯太はもうダイニングテーブルで真剣な顔つきでタブレットに目を落としている。
コーヒーをそっと置き、私はいつも通りソファでコーヒーを口にする。
夜は不気味なくらい光っている東京タワーも、昼間見ればただの赤と白の鉄塔だ。
それでもこの場所からの迫力にはいまだ慣れず、憂鬱な気持ちにすらなるため、颯太が泊まりがけの出張で不在の日はレースのカーテンを閉めっぱなしで朝も真っ暗だ。
けれど、颯太がいる家にいる時は不思議とこの景色に寂しさも憂鬱さも感じない。
会話をするでもなく、ただ背中に気配を感じているだけなのに、なんだか落ち着く自分がいる。
ひとりじゃないからだろうか。
ここにいるのが颯太じゃなくて別の誰かでも、同じように思うんだろうか。


——″今までひとりで見ていた湖は、彼と一緒にいると美しく色づいて見える。同時に私の心も鮮やかに色づいていくのだ。"


小説の一節が頭に浮かんで、ぶんぶんと首を横に振った。
颯太じゃなきゃ駄目なのかもしれないと一瞬思った私は、きっとどうかしている。