規則的な機械音で目が覚めた。
隣で颯太が上体を起こし、デジタル時計のアラームを止めていてギクッとした。
私が先に寝ていることが圧倒的に多いし、颯太は毎日ベッドで寝ているわけではないため、朝ここに彼の姿があるのはいまだに慣れない。

「おはよう、紗知」
「おはよう。遅くまで起きてたつもりだったんだけど、帰って来たの気づかなかった」
「昨夜はだいぶ帰りが遅かったから。紗知、大事そうに小説を抱えて寝てたぞ」

颯太がくすりと笑い、サイドテーブルに置かれた小説を渡される。

「この表紙、見覚えがある。紗知がハマってた小説だよな」
「うん。引っ越してきたときに見つけて、久しぶりに読んでみようと思って」

表紙は水彩絵の具で描かれた、湖のほとりでふたりが背中合わせで立っている絵だ。
颯太も興味を持って一度読んだことがあるから覚えていたんだろう。
『男にはあんまり感動するストーリーじゃないな』なんて言っていたけれど。

「遅くまで読んでて寝不足ならまだ寝てていいぞ」
「ううん、起きる。颯太のほうが寝不足でしょ?」
「俺は慣れてるから平気だ。でも、やっぱり書斎よりベッドのほうが疲れが取れるな」

颯太は息を吐きながら寝室を出て行く。
書斎には掃除のために幾度も入っている。
リクライニングの高級そうなチェアは仕事をするには心地良さそうだけれど、一晩ゆっくり眠るには窮屈だ。
毎日ちゃんとベッドで眠ればいいのに、仕事をしながらうたた寝してしまうんだろう。