元彼専務の十年愛

「紗知、ちょっと来て」

着替えてきた颯太がソファに腰かけて手招きをする。
少し距離を置いて隣に座ると、颯太が口を開く。

「この前は説明不足だったから話しておくよ」
「うん」
「…どこから話せばいいかな」

颯太は呟いて少し黙ったあと、話し始めた。

「まず、俺の母は現社長の婚前の恋人だった。政略結婚を機に別れたが、母はその時俺を身ごもっていた。社長と亡くなった妻の間には子どもができず、俺は父に引き取られることになり、改姓した」

驚きのあまり、言葉を失った。
苗字が変わった理由はわかったけれど、まさか颯太の母親が大企業の御曹司の元恋人で、そんな複雑な事情があったなんて。

「…現社長の奥様が亡くなっているってことは、今はあなたのお母さんが社長と結婚を？」
「いや、俺の母もとっくに亡くなっている」

さらっと言われ、ショックでますます言葉が出てこなくなる。
颯太のお母さんには何度も会ったことがある。
とても若々しくてはつらつとした人だったのに、どうして…