元彼専務の十年愛

コーヒーを作り、颯太の分をダイニングテーブルに置く。
颯太はいつの間にか届いていたらしい新聞の経済欄に目を通している。
集中している颯太に申し訳ないと思い、自分用に作ったコーヒーはリビングテーブルへと移し、ソファに座ってゆっくりと啜った。
ちらっと様子を見ると、今度はタブレットに目を落としている。
自宅にいても颯太は大半仕事のことを考えざるをえないのかと思うと、やっぱり身体が心配になる。
颯太はコーヒーを飲み干して出勤の準備をし、私は玄関まで見送った。

「今日は遅くなる。夕食は外で食べるから」
「わかった」

簡潔なやりとりが交わされ、颯太がドアを開けながらこちらを振り返る。

「行ってきます」

それは一昨日の『ただいま』と同じ、温度を感じ取れる表情と声で、少し反応が遅れた。
だって、これじゃまるで…

「…行ってらっしゃい」

私が言い終えると同時にドアが閉まり、光が遮られた。

…これじゃまるで、本当の婚約者みたいじゃない。