元彼専務の十年愛

月曜の朝、部屋の外から物音が聞こえて目が覚めた。
兼業していた時よりもちゃんと睡眠を取れているからか、状況を理解するのは早かった。
枕元のデジタル時計を見ると6時だ。
ドアを開けてリビングへと入ると、颯太は洗面台から戻ってきたばかりのようだった。
こちらを見た颯太が少し眉根をよせ、朝から顔を合わせるのは不快だったかとたじろいだ。

「おはよう。ごめん、起こしちゃったな」

思わぬ言葉に拍子抜けして、それから首を横に振った。

「こんなに朝早く起きるの?」
「大体いつも7時すぎには出勤する。紗知はもう少し寝てていいぞ。ここからなら会社まですぐだから」
「ううん、そんなわけには…朝食は?」
「朝はコーヒーしか飲まないから」
「じゃあコーヒーを…」

キッチンへ向かおうとする私を颯太が制止する。

「コーヒーを淹れるためだけに早く起きる必要はないよ。自分でできるから大丈夫だ」

怒りのようなものがふつふつと湧いてくる。
昨日の接待は本当に明け方早く出て行ったようで私は気づかなかったし、帰ってきたのも私が眠ったあとだった。
掃除をするだけで夕食もろくに作る必要がないのに、その上朝はのんきに寝ているなんて冗談じゃない。

「大金を払ってもらったのに、こんな取引は私にとって都合がよすぎる。できることはさせて」

鋭く彼を見つめると、颯太は驚いたのか少し間を置いて呆れたようにため息を吐いた。

「じゃあ、頼むよ」

やっぱり余計なことだっただろうかと今更思いながらキッチンへと向かう途中、彼がぽつりと呟く。

「真面目なところは変わらないな」

胸の奥がやけに疼いたのは、一昨日の夜に見た親善試合の夢のせいだろうか。
聞こえなかったふりをしてキッチンへ向かった。