元彼専務の十年愛

ホイッスルが鳴り、試合が始まる。
広い中走り回るだけでも体力を消耗するのに、パスはすぐに相手チームにとられ、逆もまた然りで、なかなか得点には繋がらない。
観客席の両校の3年生から応援が飛び交い、メンバーも掛け声を上げている。
パスがうまく回り、ゴール近くで颯太がボールを受け取ったとき。
相手チームの選手が足元に滑り込んできて颯太が倒れた。
ホイッスルが短く鳴る。
トリッピング——ファウルだ。
颯太は顔を歪めて腿を押さえたけれど、すぐに立ち上がった。
心配して声をかけるメンバーに、「大丈夫」と言っているのが口の動きでわかる。
その後も颯太は司令塔として積極的に動いていた。
それを見守りながら、違和感を覚えた。

「ねえ、愛花。高瀬先輩、おかしくない?」
「え、何が?」
「足の動きがいつもと違う」

私の言葉に、愛花が隣で彼をじっと見つめる気配がした。

「さっきまでと同じじゃない?相変わらず足も速いし、普通に動いてるよ」
「そうかな」

愛花に言われても私は腑に落ちず、彼の様子を見つめていた。

0対0のまま前半戦が終わり、ハーフタイムに入る。
メンバーにお茶の入った紙コップを配りながら、小声で颯太に問いかけた。

「足大丈夫なんですか?」
「ん?全然平気だよ。ああいうときは大袈裟に痛いふりをしたほうがファウルを取りやすいから」

彼は朗らかに答えたけれど、やっぱり違和感が拭えず、つい言葉が漏れる。

「右の腿の動きが、さっきより重いです」

颯太の顔が一瞬曇って、余計なことを言っただろうかと思ったけれど、彼は笑みを作って声を顰める。

「大丈夫。みんなには黙ってて」

やっぱりさっきのファウルで足を痛めたんだ。
確信したものの、言うなと言われれば口出しはできない。
3年生のために絶対勝とうとメンバーが意気込んでいる中、エースである颯太が抜ければ全体の士気が落ちてしまう。
この試合に颯太は必要なのだ。