元彼専務の十年愛

私のささくれ立つ心に気づく様子もなく、颯太は続ける。

「俺は夕食は外で済ませる日が多いし、出張で帰って来ないこともある。のんびり過ごしてもらってかまわないから」
「…それじゃ私は婚約者として何をすればいいの?」
「10月の頭に同席してもらいたいパーティーが一件ある。それ以外特にしてもらうことはないよ」

淡々と言って、颯太は再びご飯に箸をつける。
そんな割のいい話があるだろうか。
大金を払ってくれることになったんだから、もっとたくさん役割を与えられると思っていたのに、パーティー1度きりだなんて。

「紗知」

箸を進められずにいると、再び颯太に名前を呼ばれる。
きっと私の釈然としない気持ちが顔に出ていたんだろう。
子どもを諭す父親のような瞳が私を見ていた。

「紗知はここにいてくれればそれでいい」

いちいち反応する心臓を恨めしく思いながら、ご飯に目を落とした。

「でも、それじゃ申し訳ないから、食事の準備はさせて。掃除も私がするから」
「わかった。じゃあ自宅で夕食をとれる日は連絡する。それと、もし俺が早く帰れる日は一緒に夕食を食べよう」

意外な言葉に驚きつつも「うん」と小さく返事をした。
さっきのはただ気を使って言ってくれただけで、私と一緒に食事をすることが嫌なわけじゃないのか。