元彼専務の十年愛

『紗知のお父さんが負債を抱えたまま亡くなって、紗知は借金返済のために兼業をしています。
そこの店長からしつこく言い寄られているみたいだし、返済が終わる目途も立たないのにこんな生活を続けたら身体も心も壊れてしまいます。
いずれにしても、会社に兼業がバレればアルバイトは辞めさせられることになるでしょう。
実は、紗知の勤め先は先輩の——』
「ALPHAなんだろ？」
『知ってたんですか？』
「…同じ名前の社員がいることは、今日偶然知った」

今日偶然だなんて、愛花には嘘くさく聞こえるだろうと思いつつ答える。
データの詳細を見なくても、まさかこんな形で紗知本人だと知ることになるとは思わなかった。
いや、あの時名前をクリックして本人だとわかっても、彼女が今置かれている境遇までデータとして出てくるわけではない。
愛花が連絡してこなかったら、俺は何も知らないままだった。