元彼専務の十年愛

思考を仕事に戻すのは簡単だ。むしろ仕事以外に思考が逸れることのほうがよっぽど少ないのだ。
やるべきことはたくさんあり、常に仕事のことを考えていなければならない。
ロスにいたとき、誰かが言っていた。
『彼は感情のないロボットのようだ』と。
なるほど、間違っていないな、とその表現に感心した。
俺はロボットだ。仕事に余計な感情は要らない。
毎日ただ山積みのタスクをこなすことを繰り返し、会社のために尽くしていけばいい。

役員との会食を終えた21時過ぎ。
ホテルの入り口に横づけされた車の後部座席に乗り込むと、運転席の隆司が振り返る。

「お疲れ様」
「お疲れ様。悪いな、遅くに」
「いや、直接自宅でいい?」
「うん、頼む」

秘書をしてくれている隆司とは、仕事中はともかく、車の中では時折プライベートな会話もする。
俺にとっては唯一気が抜ける時間かもしれない。
この春重役になることが決まったときに、隆司を秘書としてうちの会社に誘った。
隆司は安定した上場企業に勤めていたし、秘書ともなれば同級生である俺に遜らなければならない場面だってあるのだから、いい返事は期待していなかった。
けれど隆司は『颯太の役に立てるなら』と迷いなく応じてくれたのだ。
隆司は仕事ができるし、誰よりも信頼がおける。
いつもサポートしてくれる彼の存在は本当にありがたい。