元彼専務の十年愛

キーを叩きながら、ふとタスクバーの日付を見て気づく。
——7月30日。
…そうか。彼女の27歳の誕生日か。
あれからもう10年も経つんだな。
胸の奥が微かに疼くのを感じながら、人事管理システムに『arisawa』と入力したのは完全に無意識だった。
文字を入力すれば指がエンターキーへと動くのも必然。
ため息を吐くと同時にデータが１件表示され、その氏名欄に目が釘付けになった。

『東京本社　総務部広報企画課　有沢紗知』

息苦しさに襲われ、自分が息を吸うのを忘れていたことに気づいた。
まさか、そんな偶然があるわけがない。
マウスを動かす手が震えた。
名前をクリックすれば、生年月日やこれまでの経歴も出てくるはずだ。
けれど…
逡巡した挙句、システムページからログアウトした。
これが彼女本人だとわかったところで、今さらどうなるというんだ。
無駄に動揺して仕事に悪影響を及ぼすなら、同姓同名の赤の他人だと思っていたほうがいい。