元彼専務の十年愛

自室へ戻ってチェアの背もたれに寄りかかり、先ほどの人材戦略会議の内容を確認するため人事管理システムを開く。

2年前に亡くなった前社長である祖父は、何事も自分の思い通りにしたがる横暴な人だった。
もし祖父が生きていたら、義理や恩など関係なく縁談の打診はあっさり断っていただろう。
父も祖父が決めた相手と政略結婚をし、それが会社の発展に大きく役立ったのだから、俺もそうするのは当然のことだ。

祖父の人となりは決して尊敬できるものではなかったが、経営手腕はとても秀でていた。
広げるばかりではない。利益を出せない事業には聖域なくメスを入れて撤退し、時に非道な決断を下す。
そうやってこの会社はどんどん大きくなっていった。
父は祖父とは真逆の穏やかで温情のある性格のため、長崎さんの件も然り、何事も切り捨てることには慎重だ。
だが、父の手腕もまた優れている。
祖父の代と経営方針は変わったものの、ALPHAの発展は衰えるどころかさらなる進化を遂げている。
いずれは俺も父の跡を継いでいかなければならない。
会社のために生きることが俺の使命になったのだから、結婚なんて会社の発展に利用できるものであればいい。
相手が誰であろうが、どうせ俺は愛してやることはできないだろう。
俺はもう、感情というものがひとより欠落しているのだから。