「颯太、長崎さんからホームパーティーの誘いが来てるぞ。お前も一緒にと」
先に会議室を出ようとしていた俺は、後ろから投げられたしゃがれ声にうんざりしながら振り返った。
「またですか。長崎さんもしつこいですね」
「お前はあそこの娘さんにかなり気に入られてるからな」
『株式会社ALPHA』の代表取締役社長である父が、苦笑いを浮かべながらデスクで書類を揃える。
海外を含め全国各地に支店が点在するため、ウェブで会議が済むというのはありがたいご時世だ。
役員会議室でこんなふうに社長と顔を合わせる機会もさほど多くはないが、最近は会うたびにこんな話題が出てくるため煩わしくて仕方ない。
「お前ももう28だからな。縁談の打診はたくさん入ってくる。持株会社設立の計画が具体的に進むまでは、安易に縁談をまとめたくないんだが」
「同感です。少なくとも長崎さんとの縁談にメリットは全くないでしょう」
「そうなんだが、長崎さんとは長い付き合いだから断りづらくてなあ」
長崎さんというのはALPHAの創業当初から世話になっている税理士の家系で、今もなお親交が深い。
「前社長が言っていたでしょう。『会社のためにできる限りメリットのある結婚を』と」
「そうだな。あの人なら、縁談の打診など断るのは容易いんだろうな」
遠くを見つめる父の頭には、常に高圧的だった前社長の姿が浮かんでいるんだろう。
「まあ、パーティーの件はなんとか断っておくよ。気を持たせるようなことはしないほうがいいからな」
「ええ、お願いします」
億劫げな父に会釈をして、先に会議室を出た。
先に会議室を出ようとしていた俺は、後ろから投げられたしゃがれ声にうんざりしながら振り返った。
「またですか。長崎さんもしつこいですね」
「お前はあそこの娘さんにかなり気に入られてるからな」
『株式会社ALPHA』の代表取締役社長である父が、苦笑いを浮かべながらデスクで書類を揃える。
海外を含め全国各地に支店が点在するため、ウェブで会議が済むというのはありがたいご時世だ。
役員会議室でこんなふうに社長と顔を合わせる機会もさほど多くはないが、最近は会うたびにこんな話題が出てくるため煩わしくて仕方ない。
「お前ももう28だからな。縁談の打診はたくさん入ってくる。持株会社設立の計画が具体的に進むまでは、安易に縁談をまとめたくないんだが」
「同感です。少なくとも長崎さんとの縁談にメリットは全くないでしょう」
「そうなんだが、長崎さんとは長い付き合いだから断りづらくてなあ」
長崎さんというのはALPHAの創業当初から世話になっている税理士の家系で、今もなお親交が深い。
「前社長が言っていたでしょう。『会社のためにできる限りメリットのある結婚を』と」
「そうだな。あの人なら、縁談の打診など断るのは容易いんだろうな」
遠くを見つめる父の頭には、常に高圧的だった前社長の姿が浮かんでいるんだろう。
「まあ、パーティーの件はなんとか断っておくよ。気を持たせるようなことはしないほうがいいからな」
「ええ、お願いします」
億劫げな父に会釈をして、先に会議室を出た。



