元彼専務の十年愛

『…紗知、久しぶりに先輩に会ってどう思った?』
「どうって…」

彼のことを思い出すとき、会いたいな、と思うことはあったけれど、それは過去の…やさしかったころの颯太だ。
今の颯太じゃない。

「生活が楽になるのは助かるよ。でも、もう会いたくなかった。元彼なんて時々思い出に浸るくらいでいいよね」

苦笑いをしてみたけれど、電話越しの愛花はつられて笑ってくれる様子はなく、そっか、とぽつりと呟いた。

別れたあとしばらく喪心していた私をそばで見ていた愛花は、気を使ってあまりサッカー部時代の話をしない。
颯太についてこんなふうに聞かれるのも初めてだ。
私の誕生日には母以外にも何人かの友人が毎年祝福メッセージをくれるけれど、愛花からメッセージをもらったことはない。
それは愛花なりの配慮なんだろう。
私が振られたのが誕生日であることを知っているのは、愛花だけだから。