元彼専務の十年愛

「そんなに急がなければならない話なんですか?」
「専務からはなるべく早急にと言われております。アルバイトに関しても、もう行っていただく必要はありません。こちらから話を通しますので」

ホッとして肩の力が抜けた。
アルバイトの件は非常に助かる。
今日もシフトが入っていたため、気が重くて仕方なかったのだ。

「隆司先輩は…えっと、佐藤さんはこの件についてどこまで事情を知っているんですか?」

微笑んだ彼が砕けた言い方に変わる。

「隆司のままでいいよ。佐藤っていっぱいいるから。午前中のふたりのやりとりついては大体聞いてる」

ということは、隆司先輩は婚約が『ふり』であることを知っているということだ。
当然と言えば当然だ。
颯太は隆司先輩に信頼をおいているからこの会社に誘ったんだろうし、隆司先輩を欺くようなことをするとも思えない。
彼は書類をテーブルの上で整え、封筒に入れて私に差し出した。

「急な話でごめんね。颯太は明日休日出勤だから、俺がマンションを案内するよ」
「…わかりました」

強引ではあるけれど、取引は取引なのだから従うしかない。
隆司先輩に謝られるのはおかしな話だと颯太に不満を持ちながら、封筒を受け取った。