元彼専務の十年愛

「家は近いの?」
「えっと…電車で15分くらいです」
「そっか。部活やってると夜遅くなるし、遠いと大変だから。よかった」

思わず見上げれば、整ったEラインの横顔が風を受けて目を細めている。
帰り道のことを心配してくれたんだろうか。
いや、そんな意図はなく雑談のつもりだったのかもしれないけれど、なんだか嬉しくなって少し緊張が解けた。

「先輩はどのあたりなんですか?」
「俺は電車で45分」
「ちょっと遠いですね」
「サッカー部で同じ中学出身の奴は隆司だけだよ。あいつは幼なじみなんだ」

パッと佐藤隆司(さとうりゅうじ)先輩の顔が思い浮かんだ。
苗字がありふれているからと、後輩はみんな下の名前で『隆司先輩』と呼んでいる。
まだ部員の顔と名前は全員一致していないけれど、彼と仲がいい隆司先輩のことは覚えている。
隆司先輩も長身でイケメンだから、ふたりでいると目立つのだ。

「有沢はえらいな」
「え?」

再び顔を上げると、私を見下ろすやさしい瞳があった。

「サッカーの勉強用にノートつけてるんだろ?ごめん。この前ベンチから落ちて中身開いてるの、ちょっと見えた」
「あ…」

あれを見られたのか。
スコアノートとは別で、過去の試合を見て研究して自分でまとめているものだ。
恥ずかしくて顔が火照り、視線を泳がせた。

「私、サッカーについてよくわからないまま入部しちゃったので、ちょっと研究しようかと」
「真面目だな」

降ってくる笑い声は、呆れるでも嫌味っぽくもない。むしろきっと褒められている。