元彼専務の十年愛

彼が立ち上がって私に向き合う。

「もう一度言う。半年間、婚約者のふりをして一緒に暮らしてほしい。見返りにじゅうぶんな金銭援助を約束する」

金銭援助…『取引』というのはそういうことか。半年間、お金で私を買おうと。
兼業禁止なのを承知の上で働いていたのだから、咎められても自業自得だ。
当然アルバイトは辞めざるをえなくなるだろう。
けれど、兼業しなければ借金は返せない。
たった半年。そんな短期間で済むなら…
自分の中であっさりと結論が出たのは、すでに精神的に限界がきていた自覚があるからだ。
このままではダウンしかねないし、本業であるこの仕事に支障が出れば借金返済どころじゃなくなってしまう。
細く息を吐き、ガラス玉のような冷たい瞳を見つめ返した。

「約束していただけるんですね、金銭援助」
「ああ」
「わかりました。お受けします」

軽く息を吐いて肩を下げた彼の表情が、幾分安堵で緩んだように見えた。
けれど、それは私の都合のいい思い込みでしかないんだろう。
この期に及んでまだきれいな思い出に縋ろうとする自分があまりにも情けなくて、また涙が出そうになった。