元彼専務の十年愛

「今日は取引がしたくて呼び出したんだ」
「取引…」

意味がわからずオウム返しすると、表情のないまま彼は続ける。

「単刀直入に言う。今来ている縁談から逃れたい。半年間、俺の婚約者を演じて一緒に暮らしてほしい」

冷水をかけられたような衝撃に、頭の回転が止まる。

「この歳になると縁談の話は絶えないが、会社の大きなメリットになりそうなものは今のところない。だからもうしばらく配偶者選びを先延ばしにしたいんだ。婚約したという話が広まれば周りもしばらく静かになるだろう」

顔色ひとつ変えず流暢に説明され、咀嚼できずにしばし茫然とした。
彼の言葉を何度も反芻しながら、少しずつ理解が追いついてくる。
会社のメリットになる縁談がないから、それらを退けたい。
そのために婚約者のふりをしてほしい。
彼の口からそんな言葉が出てきたことも、そのために10年も前に振った私を利用しようとすることも信じられない。