淡いオレンジのライトの下で、瞳を潤ませた彼女が俺を見上げる。
10年分大人になった彼女は、艶かしいほど綺麗になった。
薄化粧もナチュラルな黒髪もあの頃と変わらないのに、醸し出されるこの色香は他の男に幾度となく抱かれてきた証なんだろうか。
俺は知らない。
彼女がどんなふうに生きてきたのか。どんな男と恋をしてきたのか。どんなふうに愛し合っていたのか。
俺にそんな権利はないというのに、想像するだけで激しい嫉妬心が胸に渦巻いてくる。
埋まらないとわかっている空白の10年を、今この瞬間だけでも埋めたくて、唇を押し当てた。
繰り返される口づけは徐々に深いものに変わり、貪るように口内まで支配した。
唇の隙間から苦しげに吐息を漏らしながら必死に応えようとする彼女が愛しくて、どんどん気持ちが昂っていく。

この一線を越えてはいけない。
夜が明ければ、俺たちはもう二度と会うことがなくなるのだ。
わかっているのに、彼女の全てが欲しくてたまらないと心が痛烈に叫んでいる。

僅かな理性と懺悔が俺にかろうじて冷静さを与えてくれて、ゆっくりと唇を離した。

「少しでも迷いがあるなら今言って。そうじゃないなら…」

浅く息を震わせながら、彼女がうっすらと目を開く。

「もう、止められない」

拒否してほしい。全力で押し返してほしい。引っ叩いてくれてもかまわない。
そうでないと、俺はもう本当に…

彼女の恍惚とした表情に瞳が揺れ、浮かんでいた涙がこめかみをつたい落ちた。
伸ばされた手が、俺の腕をぎゅっと掴む。

「止めないで…」

全身をめぐる血液が沸騰したのかと思うほど、体温が一気に上昇した。
きつく抱きしめると、同じ分だけ抱きしめ返してくれる。
湧き上がった思いを抑える術など、もうあるわけがない。
滑らかなその形を確かめるように全身を弄り、欲望のまま舌を這わせて食む。
乱れる息と制御を失った甘い声が部屋中に充満していく。

「紗知」
「颯太…」

うわ言のように呼応するたび、身体の芯がぞくりと疼く。まるで媚薬だ。
繋がった瞬間、彼女がひときわ甘く切ない声を響かせた。
言いようのない悦びで全身が震え、脳が痺れていく。
汗ばむほど熱くなった肌が擦れ合い、溶け合って、ぐちゃぐちゃになって、それでもまだ足りないと強欲な自分が彼女を求める。

「っそう、た…」

襲い来る波に耐えようと身悶える彼女を、絶対に逃がすまいと強く抱きしめた。

俺はこの10年、人としての感情が大きく欠落していると思っていた。
誰にも心を揺さぶられることのないまま人生を終えるのだと思っていた。
それが正しいことだとすら思っていた。

それなのに…
10年もの間、俺は一体どこに、こんな愛しさを隠していられたんだろう——