「どうして…颯太は重役で、それに釣り合う女性と結婚して、本社で働き続けるんでしょう?」
「重役なんて、代わりになれる人間はいくらでもいる。でも俺の人生には紗知がいなきゃ意味がない。紗知にとってもそうでありたいし、俺は紗知が紗知らしくいられる場所で一緒に暮らしたい」

零れ落ちる涙を、颯太の指が掬う。

「たくさん傷つけてごめん。でも、これからは俺が紗知をずっと笑顔にしていく。必ず幸せにすると誓う。だから、俺と結婚してほしい」

言いようのない感動が湧き上がり、堰を切ったように涙が止まらなくなる。
しゃくりあげながら、ただ大きくうなづいた。
颯太は微笑んで私の左手をとる。
薬指にはめられた指輪は、パーティーの時の婚約指輪よりもずっと輝いて見える。
温かい腕が私を抱きしめ、私もその背を抱きしめ返した。

「…もう、自分の言葉にちゃんと責任を持てる。やっと堂々と言える日がきた」
「なに?」

鼻を啜りながら訊ねると、颯太は抱きしめる腕に力を増し、私の右耳に顔を寄せる。

「愛してるよ、紗知」

一点の曇りもなく囁かれた言葉がやさしく鼓膜を揺らし、ますます涙が止まらなくなった。