元彼専務の十年愛

「おはようございます」
「おはよう、有沢さん」

挨拶をしながら席に着くと、隣のデスクの2つ年上の女性、河田さんが私の顔をじっと見て眉を顰めた。

「有沢さん、顔色悪いけど大丈夫?」
「えっそうですか?」

思わず両頬に手を当てた。
目の下のクマが気になったから、今日はきちんとメイクしてきたつもりなんだけれど…

「最近なんだか体調悪そうだなって思ってたんだけど、どうしたの?」
「えっと…最近夜更かしして小説を読んでるから、ちょっと寝不足なんです」
「そっか。有沢さん、小説好きなんだっけ。でもあんまり無理しないでね」
「はい」

明るく返すと河田さんは微笑み、自分のパソコンのモニターへと顔を向ける。
ホッと肩をなでおろした。
社内の人に兼業していることを知られるわけにはいかないのだ。