『婚約破棄…』

電話越しに呟いた母が黙りこんでしまった。

「ごめんね。ぬか喜びさせて」

暗くならないようにと思ったけれど、明るく話すほうが母の心痛を煽るかもしれないと、ただ申し訳ない声を出した。

『お母さんが心配かけちゃったから…あなたがここに戻ってくることになったから、別れることになったの?』
「それは違うよ」

強い口調できっぱりと返した。

「私たちは、私たちなりの事情でこういう結論を出したの。お母さんは何も悪くないよ」
「本当に?」
「うん、本当」

母が原因じゃないのは間違いないのだ。
いつかこの報告をすることになるのは最初からわかっていたのだから、母が結婚への期待を過度に膨らませる前に言えてよかったのかもしれない。

「大丈夫。そっちでいい人見つけるから、心配しないで」

そんな気にもなれないくせに、明るい声でまたひとつ嘘を吐いた。
今の私は、少しも笑えていないだろうと思いながら。


——"他の誰かに縋れたら、どれだけ楽になれるだろう。幾度となく考えたけれど、それは不可能なのだとこの胸の痛みが訴えている。"