翌日からも、颯太はいつも通りだった。
新聞やタブレットをチェックし、私はコーヒーを淹れる。
『行ってきます』と視線を合わせずに出て行き、夜は私が眠ったあとに帰ってきて書斎にいる。
今までと変わらない日々が続いていく。

隆司先輩が手筈を整えてくれて、異動の話はすぐに進んだ。
イベントが終わってしばらくはルーティーンの仕事だけにはなるけれど、本来こんなに急に辞めていいものじゃない。
河田さんが『よほどの事情があるのね。大丈夫?』と心配してくれて、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

異動までの半月、颯太と顔を合わせるのはほんの僅かな時間でしかないんだろう。
私は母のために実家に帰れる。
合わないと思っていた都会暮らしからも解放される。
嬉しいことのはずなのに、日を追うごとに胸の痛みは増していく。