腕がゆっくりと離され、身体を起こした颯太が小さく笑みを浮かべる。

「紗知、来月中に実家の近くの店舗に異動できるように手配してやるよ」
「え」
「お母さん、心配だろ。引継ぎもあるから今すぐにと言うわけにはいかないが」
「でも、まだ半年経ってないのに」
「パーティーは終わったから『ふり』はもうじゅうぶんだ。助かった」

黙り込んだ私に、颯太は光のない目でぽつりと言う。

「全然足りないが、これがせめてもの『償い』だ」

颯太は顔を逸らし、そのまま書斎のほうへと去って行く。
残された私はしばらくその場に立ち尽くしていた。

颯太の言葉の意味を、私はどう捉えたらいいんだろう。
彼の考えていることがわからない。
わからないまま、私は彼の厚意に甘えてここを去っていいんだろうか。