「私が彼をどう思ってるかは関係ないよ。取引をしてるだけなんだから、余計なことを考えないであと3ヶ月同居してればいいの」

こんなの自分に言い聞かせているようなものだ。
この想いを吐露しても苦しくなるだけなのだから、口にできるのはこれで精一杯だ。
しばし黙っていた愛花が視線を落とす。

「ごめんね、紗知。私が先輩に言ったの」
「え?」
「前に偶然隆司先輩に会って、高瀬先輩がALPHAで重役をしてることを知ったの。紗知の借金をなんとかしたくて、隆司先輩を通じて、高瀬先輩に紗知を助けてほしいって頼んだ」

愛花がぎゅっと目を閉じ、声を震わせる。

「ごめん。先輩が婚約なんて提案をすると思わなかったの。紗知を苦しめるつもりなんてなかった」

思わぬ真実に茫然とした。
颯太は偶然私の名前を見つけたと言っていたけれど、違ったのだ。
彼は、私がALPHAにいることを愛花と隆司先輩を通して知っていて…
鼻を啜り始めた愛花にハッと我にかえり、身を乗り出して彼女の肩を撫でた。

「愛花、謝らないで。借金がなくなって助かったのは事実なの。愛花のおかげだよ。ありがとう」

目を赤くして顔をあげた愛花が、声を潤ませる。

「でもね、私は隆司先輩に少し聞いただけだけど、高瀬先輩にも色々な事情があったみたいなの。取引だって、高瀬先輩なりの考えがあってのことだったと思う」
「…うん…」

返事をしながらも、愛花の言葉はもう上の空だった。
愛花が颯太を頼ったとしても、颯太に私を助ける義理はない。
それなら金銭援助をしてくれた理由なんてひとつしか思い浮かばない。
彼はあんな別れ方をした罪悪感からお金を出してくれたのだ。
婚約の件だって、何か理由を取ってつけないと私が援助を断ると思ったから持ちかけたのかもしれない。
最近冷たく感じるのは、取引をした以上仕方なく私と一緒にいるからなのだ。