翌日は土曜日。昼に新宿のカフェで愛花と待ち合わせをしていた。
メニューを眺めていたら、愛花が手を振りながらやって来た。

「紗知、お待たせ」
「私も今来たばっかりだよ」

愛花の仕事が忙しかったため、こうやって会うのは久しぶりだ。
互いにパスタのランチセットをオーダーしたあと、軽く身を乗り出した愛花が真面目な顔をして問う。

「その後どうなの?」
「楽に生活させてもらってるよ。パーティーも終わったし、あとはもうしばらく同居生活を続けるだけ」

決して暗い言い方はしていない。
むしろ笑ってみせたはずなのに、愛花は顔を顰めた。

「楽に生活してるなら、なんでそんなにつらそうな顔をしてるの?」
「え?全然そんなつもりないよ」

慌てて明るい声を出したけれど、愛花は私をじっと見つめて様子を窺っている。
無自覚だったけれど、顔に出ていたんだろうか。
まだ体調がよくないであろう颯太が心配だから、余計にかもしれない。

「もう一度、聞いてもいい?」
「何?」
「紗知は、高瀬先輩のことをどう思ってる?」

直球で問われ、すぐに答えることができなかった。
取引を持ちかけられた日、愛花には『会いたくなかった』と言ったけれど、今はあの時とは違う心情で『会わなければよかった』と思う。
再会してから思い知らされた。
私の心を乱すのは、10年前も今も颯太だけなのだと。
そして颯太の高熱で思ったのだ。
この人が消えてしまうことが何よりも怖いと。
けれど、そんな想いは何の意味もない。