田畑と民家ばかりの長閑な町だった。
視界を遮る高層ビルなどひとつもなく、遠くに年中雪の消えない山々が見渡せた。
そよぐ風は土と草の匂いを運び、夜になれば蛙が喧しく合唱を奏でる。
等間隔に並ぶ街灯は他に光を放つものがない道を照らすには心許なくて。
その分黒い空に輝く月と星がとても映えていた。
「きれいだな」と言えば、隣から「そうだね」と返ってくる。
他愛のない会話をして笑い合う部活帰り。
同じサッカー部の仲間に冷やかされながら、繋いだ手を離すのが惜しくて、駅までの道乗りをいつもゆっくり歩いた。

まだ世間知らずの子どもだった。
この幸せがずっと続いていくのだと本気で信じていた。
最低な形で彼女を突き放し、10年後さらに最低なことをして傷つけるなんて思いもせずに。