時折吹く強い風に揺れている草は、まるで緑の海のようだった。さざなみのように、無作為に揺れる緑。そこにそろそろかげり出した、夕焼けのオレンジ色が混じる。

「……この風景、綺麗だよね。俺は冒険者になりたくて、幼い頃に良くここで訓練してたんだ」

「すっごく綺麗です! そうですね。シリルは……生まれた時から、勇者様ではないから……」

 勇者ご一行は生まれた時に宣託がなされる聖女以外は、魔王復活の時に選ばれる。彼はその時に世界の中で一番強かったから、選ばれたのだろう。

「うん。そうなんだ。実は俺は幼い頃、背があまり伸びなくて、チビだといつも周囲から馬鹿にされててね」

「え……嘘……」

 私は自分では見上げるほどに背が高いシリルの整った顔を、見上げた。

 もちろん、今は成人している彼にだって、子どもの頃があるってわかっているけど……それでも、信じられないのだ。

 今ではこんなにも立派な勇者が、周囲から馬鹿にされることがあったなんて。