ほんの少し前までは「ジャスティナは確かに美しくて素晴らしい女性だけど、きっと私の良さを評価してくれる人だって居るはず」と、前向きに思えていた。

 大多数の人はジャスティナのことが好きかもしれないけど、私を気に入ってくれる物好きな人だって少数派かもしれないけど居るはずだと。

 けれど、今夜の夜会で私が憧れているヴェルデ侯爵の跡継ぎ息子エミリオ様とジャスティナが人目を避けるように楽しそうに談笑しているところを目撃してしまった時、ジャスティナのように気高(けだか)くありたいと思っていた私の心は見事に折れた。

 ジャスティナに一言声をかけてから帰ろうと、そう思っただけなんだけど……あんなに、楽しそうに話していたんだもの。きっと、私のことなんて忘れているに決まっている。

 エミリオ様に憧れていると前に彼女に言ったことなんて、忘れてしまっているのだろう。

 城から帰りの馬車にある小さな窓から外を見れば、今の私の心を映(うつ)すようなはっきりしない雨だった。