人の望むすべてを得て、どんな楽しみでさえも無理なく楽しめる立場になると、どうしても何かが欲しいと焼け付くほどに飢える事も何もない。

 何でも手に入るのだから、何かに特別な執着を感じることもない。

 そう。だから……世界中のなにもかもが、色褪せて見えていたものだ。

 魔王討伐を終え必要最低限の役目を果たして一目散に逃げ出した勇者シリルを探してこいと言われた時、他人事の俺はいよいよあいつも逃げられなくなったかと思った。

 シリルやライリーは友人というより、戦友だ。

 世界を救うために強制的に組まされたパーティの中で、ベアトリスという耐えがたい困難にも励まし合い協力して打ち勝ち、見事役目を果たしたという戦いの戦友。