だが、この先に自分を待っている展開を思えば、楽観視など出来やしない。とてつもなく馬鹿なことでもしたい気分だった。

 どうにかこの難局を避けきったとしても、ベアトリスは諦めない。

 多分、幼い頃から欲しいものはすべて手に入れて来たからだ。自分の欲を我慢することを知らないのは、ベアトリスのせいなのか周囲の誰かのせいなのかは知らない。もうどうでも良い。

「最悪だ……」

 そして、やけになった俺は今までの人生の中でも、一番馬鹿なことをした。

 ふと、酒場の前に綺麗な女の子が立っているのが見えた。切望するあまりに見えたまぼろしなのかもしれない。ここはあんな上等な服を着た女の子が居る場所では、絶対にない。

「あのっ……」

 彼女が声を発したのを見て、俺は慌てて短い階段を降りた。

「はいっ? え。何々! もしかして、貴族のお嬢様!? なんでこんなところに……どうぞどうぞ、こちらへ。雨に濡れますので」

 柔らかな手を握った時に、俺は確信した。これは、まぼろしでも夢でもない。この女の子は、現実だ。

『シリル。この子はフィオナ。優しくて素直な性格で、お前が求めている女性だ』