「っ……フィオナ。どうしたの?」

 湯浴みを済ませた私が隣にあるシリルの部屋を訪ねれば、彼は扉を叩いたのが私だと思っていかなかったのか、驚いた様子だった。

 彼ももうすぐ寝ようと思っていたところだったのか、いつもは整えられていた髪が洗い立てで下ろされていた。いつもは隙が見えないのに、そういった姿を見ると幼く思えて可愛い。

「ごめんなさい……シリル。私、眠れなくて。眠るまで一緒に居ても良い?」

 本日色々とあった私は、一人でベッドの中に入っても興奮しているのかなかなか寝付けなかった。私の言葉を聞いて、彼は微笑んで頷いて中へ入るように示した。

「うん。良いよ。無理もないよ。今日は、色々あったもんね」

 実はこの時に私は初めて夫の部屋に入ったんだけど、驚くほどに物が少なくて驚いてしまった。私の部屋には結婚前からお気に入りの物や、家族の肖像画などが飾られている。

 奥の壁に一本の剣が立てかけられていて、あれが聖剣エンゾだとわかった。私をシリルにお勧めしてくれたらしい、とっても良い聖剣。

「……シリルの部屋って、何もないね」

 私は奥にあったソファへと腰掛けながら、隣に座った彼に部屋を見た素直な感想を言った。

「……あ。うん。そうだね。俺は元々冒険者だったから、ずっと旅続きだったし……物を増やすことに、どこか罪悪感があるんだ。けど、今は定住出来る邸を持っているし、色々と物を増やしていきたいな……」