「ベアトリスが張っていた結界を、俺が貼り直す一瞬の内に入り込んだか。魔王宮クラスのモンスターが王都まで侵入するのは、多分歴史上初になるかな。うん。まあ……俺は今あれを相手にするのは、さすがに無理かな」

「……最近、守護結界が不安定だったから、多分近くで入り込む機会を窺っていたんだな……勇者シリルは慣れない守護結界張って役立たずだし、魔法使いの俺も魔力がほぼなくて役立たず。揃いも揃って役立たずの英雄なんて、笑えないな」

 伝説の邪神のような大きな空に浮かぶ顔を見上げていた私は、この国の存亡の危機を前にして、まるで雨が降り出したねといったような淡々とした口調で二人が話す内容が信じられなかった。