すぐ近くに居たのは、今は城の演習場に居るはずの私の夫だった。

 泣いていた私を安心させようとしてか、にこにことしたいつも通りの笑顔は見えるけど、目の奥にはまぎれもない激しい怒り。

「話は後だ。フィオナ。ごめん。十秒だけ、目をつむっていて。すぐに終わるよ」

 彼は大きな手を私の目に当てると、目を閉じたのを確認してから、傍から離れたようだった。

 私が彼の言った通りに数を数えている間に聞こえて来たのは、何かが破られるような大きくて高い音と、いくつかの悲鳴。

 何が起こっているのかとても気になったけど、シリルの言う通りに大人しく目を閉じていた。

 けど……どうして、シリルはここに居るのかしら?

 私はルーンさんが心配で探しに行こうと邸を留守にはしているけど、まだ心配を掛けるような時間は経っていないはず。

 外出する私が一緒に連れていた御者や護衛騎士たちは、全員エミリオ・ヴェルデに捕まっていたようだったし……来てくれて、本当に嬉しいけどどうして?

 やがてふわっと体全体を包む熱を感じたので、それが匂いで夫のシリルだとわかった私は彼の大きな体に抱きついた。