春眠暁を覚えず。

その言葉を身をもって実感しているのが、今の私だ。

「真智、あんたさっきの数学の時間も居眠りしてたでしょ。フツーに先生にバレてたよ」

 昼休みの教室。親友の芽衣がお弁当を広げながら私に言った。

「うぇええ、最悪……」

「ほんとよく寝るよね。夜、あんまし寝てないの?」

「なんか最近、変な夢ばっか見るんだ」

「変な夢?」

「うん。山奥の、どこか村みたいな場所。木造の家と畑があちこちにあって、あと木がいっぱい並んでた」

「木?」

「ブルーベリーみたいな、青い実が生った木がずらっと並んでたの」

「それって、都市伝説に出てくる奇妙な夢の村じゃない?」

「夢の村?」

「うん。『共通夢』っていう、多くの人が一生に一度は見る夢のことらしいよ。で、その村っていうのが」

 ……あれ?

 急に、芽衣の声が途切れた。テレビを消したみたいに。

 そう思った瞬間、私は『外』にいることに気づいた。

 え? なんで? 私、教室にいたはずなのに。

 周囲を見回すと、見覚えがあった。

 荒れ果てた畑。廃墟同然の木造の家々。

 そして真っ青な実がわんさか生る木。

 ここは……夢で見ている村だ。

 ってことは私、寝ちゃってるの?

 友達と話している最中に!?

 ありえない!

 軽く混乱しながらとにかく歩き出す。すると、足元がズルッと何かで滑った。

 私は前のめりに転んだ。アゴを強かに打ち、息が止まる。

「痛ったぁ……ん? 何かある?」

 右手の下にあったものは、人間の顔だった。

 頭上にある木の実と同じ色をした真っ青な顔が、苦しげに歪んだまま固まっていた。

 それは明らかに人間の死体だった――

「真智!! 聞いてる!?」

「っ!?」

 芽衣に怒鳴られて、心臓が飛び跳ねた。

 え? あれ? ここ教室だ。

「話の最中に居眠りとか……あんた、マジで大丈夫なの?」

「え、今私寝てた?」

 寝てた、と芽衣が答える。

 マジかー……というか、なんかすごく変な夢見たな。

 なんだっけ。そうそう、芽衣が都市伝説の夢の村の話をしてたんだっけ。

「ごめん。それで、夢の村って何なの?」

「だから、夢に出てくる不思議な村なんだって。多くの人が共通して見るらしいんだけど」

 芽衣が玉子焼きを食べながら、話した。

「その村ではね、
 転ぶと死ぬらしいよ」

 ……………………えっ?

「その村の道端には、青紫色の死体がいっぱい転がってるんだって……え、ちょっと、真智。どうしたの」

 顔が真っ青だよ。

 そう言われた瞬間、芽衣の顔も声も遠くなった。

 ――真智! どうしたの、真智!
 ――だ、誰か先生呼んできて! 真智が!

 ――真智が、息してない!

 すぐに何も見えず、何も聞こえなくなった。

 次の瞬間、私は青紫色の死体と死体の間に転がっていた。