もうお手上げだ。兄は全てを知っているのだろう。兄が寄越してきた警備がその証拠。


「私は妻としては失格です。侯爵家の跡取りを産むつもりはありません、いえ、産めませんから」

 これで大体はわかる。どのような結婚生活を送っているか。


「そうか、そう言うことか……それなら離縁すると言うことだな?」

 父に言われ頷く。

「ルーナ頑張ったわね……ごめんなさいね。親として失格だわ。結婚式の時に侯爵様に必ず幸せにします。なんて言われて信用しちゃったもの……」

 母が涙した事により心が痛んだ。母は悪くない。悪いのは私だ。もうこうなった以上一年を待たずに離縁する事になるだろう。それなら早めが良い。

「ルーナ、もう侯爵家に戻る必要はないぞ」

 兄が笑顔で言う。

「まだ隠していることはありそうだが、そんな家に戻る必要はない。小娘にしては頑張った方だ。侯爵殿の誘いを断るのは大変なことであっただろう。普通の小娘なら言いくるめられて手篭めにされていた事だろう」

「お兄様! お父様とお母様の前でなんてことを言うのよ!」

 手篭めだなんて……悍ましい。


「事実だ。今まで手を出されなかったからといって、今日以降うまく行くとは限らん。薬でも盛られて体を奪われるか、無理やり押し倒されると言うこともある。男というものは失ってから気付くバカな生き物である。ルーナは社交界で美しく賢いと評判なんだ。誰が好き好んで手放すというのだ。離縁をする()()しれないという噂も広まっている。だから未だに求婚の手紙が我が家に届くのだろう」