メイド長が窓の近くに寄り手を指す方向を見る。離れと言っても一軒家の様な大きさ。白い壁に濃い緑の屋根が上品だ。


「すてきな建物ですのね。わたくしまだこの邸の事をよく知らないので、あのような離れがあるとは存じませんでしたわ」

 広い敷地内ですもの。見て回りたいわね。


「お客様は本邸で過ごされたいと仰っておりまして、旦那様は奥様が快適に過ごす為に、それは困ると断っております」


 ジョゼフはキッと執事を睨むが執事はシラッとした顔をしていた。どっちに良い顔をしたいのかしら? 優先はアグネスでしょうに……


「まぁ、わたくしの事は気になさらなくても宜しかったのに。アグネス様と仰いましたよね? どうぞ本邸でお過ごしください。お部屋はたくさんありますでしょう? アグネス様が過ごしやすい様に、わたくしが離れでお世話になりますわ。それで解決という事にしませんか?」


 にこりと笑うルーナ。家庭内いえ敷地内別居ね。何かあれば(ないに越した事はない)すぐに本邸に来られるし、ジョゼフに会わずに済むしいい事尽くめじゃない!


「ダメだ! 私の妻はルーナだからそれは出来ない!」
「そうです、奥様には本邸にいてもらわないといけません」
「ルーナ様が離れなんて困ります」

 そんなに反対しなくても……

「侯爵様。契約①を実行いたします」

「……それなら私は契約④だ!」


「ねぇ何の話をしているの? ルーナさんがいいって言ってんだからそれで良いじゃないの!」

「アグネス様の仰る通りです。二対一ですので、わたくしは離れに行きます。家具の搬送準備をお願いしますわ」