「結婚するんでしたよね? おめでとうございます。それを言いたかったの」


「もっと他に手がありましたでしょうに……アグネス様のやり方は分かりにくくて困りますわね」

「なんのことかしら? もしかして……ジョゼフ? あの時の事?」


「……えぇ、まぁ」

 チラリとエミリオを見ると、腰に手を回してきた。何かを感じ取ったようだ。


「仲がよろしいのですね? ルーナさんの婚約者様、昨日は申し訳ございませんでした。改めてお詫び申します。もしかして喧嘩になったりしましたか?」

 戯けるように笑うアグネス。

「ルーナ、こちらの方は? 昨日は偶然ではなくわざとだったと言う事ですか?」


「……ちょっとした、知り合いというか」
「申し遅れました。ルーナさんの元婚約者の恋人だったアグネスと申します」

「! もしかして。あの?」

 エミリオがワナワナと震えた。

「あら? ご存じでしたか? ルーナさんってばちゃんと説明をしていたのね」


「エミリオ様。アグネス様がいたからこそわたくしはあの家から出る事が出来たのです。アグネス様はその後、国から出てしまわれて、ご実家の男爵家からも、」

「捨てたのよ? ジョゼフも家族も。私は自由になったの。だから今はただのアグネスよ。様なんて要らないわ。それにルーナさんのお陰で慰謝料もジョゼフに買わせた宝飾類もいただいたから、生活には困らないのよね。あとごめんなさい、ルーナさんに最後に会いたくて貴女の大事な人を使ってしまったわ。伝わるといいなと思っていたけど分かってくれてありがとう」


 にこっと笑うアグネスは、以前の妖艶な女性というか、美しく魅力のある女性に見えた。憑き物が取れたようなすっきりとした顔だった。


「こちらこそ、お会いできて良かったです。エミリオ様を使ったと言うところは反則ですけど、許して差し上げます」