前もって連絡を入れておいたので、門番は鈴たちを見ると。
 すぐに門を開けてくれた。
「車の迎えはないのか?」
 鈴が門番に言うと、門番は申し訳なさそうに
「申し訳ございません。明日到着すると伺ってましたので、準備がまだ…」
 鈴の強い口調に縮こまっている門番に、ミュゼやジェイは「うわあ、またお坊ちゃま発言だあ」と小さい声で言った。

「鈴ちゃん、歩いていけばいいじゃん」
 くたびれた顔で白雪姫が言った。
「…ここから歩くと、20分はかかるぞ」
「えっ。目の前にある建物じゃないの!? なんで、20分もかかるの!!」
 ゴールしたと思い込んでいた白雪姫がギャーギャーと叫ぶ。
 疲労困憊しながら、歩くこと20分。
 ようやく辿り着いた屋敷に鈴以外の人間は黙り込んでいる。

「ただいま戻りました」

 鈴がうきうきした顔で屋敷に入った。
 扉を開けると、すぐに70代ほどの眼鏡をかけた執事が「おかえりなさいませ」と深くおじぎをする。
「爺、久しぶりだな。父と母は?」
 鈴が思わず笑顔になって執事に話しかける。
 薄暗い静かな空間は、執事以外、誰の気配も感じさせなかった。
「申し訳ございません。鈴坊ちゃま。旦那様も奥様も、もうお休みになられておりまして…」
「そうか・・・そうだな。父上も母上も早寝早起きだもんな」
 さみしげな表情を浮かべる鈴に執事はもう一度「申し訳ございません」と謝る。

「執事さんが謝ることないのに…」
 ボソッとミュゼがつぶやいた。
「鈴坊ちゃま、今お部屋の準備を致しますゆえ、暫くお待ちくださいまし」
「おう、早く頼む」
 横暴な鈴の態度に、ミュゼと白雪姫は「わあ」と声を漏らした。
 夜遅くに大勢で来たら、迷惑だとわかっているのに…

 バタバタと走って執事がいなくなると。
 鈴は「少し待ってくれ」と他の人間に言った。
 白雪姫は「疲れたあ」と言って、その場にしゃがみ込む。

「まあ、すず? 鈴なの?」

 2階から降ってきた声に、すぐさま鈴が反応した。
 絨毯のひかれた階段から駆け下りてきた婦人は、鈴に近寄ってくる。
「母上!!」
 鈴は大声で叫んだ。