隣に座っているホムラが、阿呆…という目つきで鈴を見た。
 それも、そのはず。
 鈴はドラモンド侯爵が提案した今回の旅に、一度は納得したものの。
 出発日が近づくにつれて、不安になり何度もドラモンド侯爵に旅の目的を尋ねたのだ。
 鈴が質問するたびに、のらりくらりとかわしてきたドラモンド侯爵だったが。
 笑顔がふ…と消えて真剣な表情になった。
 世間知らずの鈴とはいえ、賢い子であることは確かなのだ。
 ドラモンドがじっと鈴の顔を見る。

 血の繋がりがないとはいえ、ドラモンド侯爵と鈴は美形親子と言われてきた。
 父親の目から見ても、鈴は美男子に育ったな…という感想を持つ。

「鈴、君に友達はいるのかな?」

 静まり返った部屋に。
 ドラモンド侯爵の声が響いた。
「は?」と鈴は驚いて固まってしまった。

「私はすぐに答えられるよ。国家騎士団頭脳班であるツバキ団長だ」

 ドラモンド侯爵は鈴から目をそらす。
「アイツとは10歳からの付き合いで、切磋琢磨しながら騎士としての地位を昇りつめてきた。鈴は、どうだ? 友達と呼べる人の名前を教えてほしい」
「わたしは…」
 鈴はみるみると青くなった。
 ホムラは2人の会話を聞いて。ドラモンド侯爵が鈴に意地悪していることに、すぐに気づいた。
「お言葉ですが、ドラモンド侯爵殿。私も友達なんてものはいません」
 ホムラが助け船を出すと、鈴が物凄い勢いでホムラを睨みつける。
「ドラモンド侯爵は、貴様になんぞに意見を訊いているのではない!!」
「まあまあ、鈴。落ち着きなさい。ホムラ、君は誰とでも仲良くなれるだろ。私の質問に対して適切な答えじゃないね」
「申し訳ございません」
 ホムラが謝ると、鈴がニタニタと笑った。
「鈴、仲間を作ることはいいことだよ。いくら学校をトップの成績で卒業出来ても、仲間がいなきゃ始まらない」
「………」
 鈴は言葉に詰まった。
 ドラモンド侯爵の言うことは、すべて正しいと思えるし。
 命令されたことは、すべて叶えたいという思いでいっぱいなのだが。
 友達…仲間…となると。
 無理…としか、思えなかった。
「同年代の子達と一緒に旅することで絶対に君は変わるさ。鈴、君は真面目に生きすぎたんだ。この旅で、真面目になりすぎる必要なんてないんだよ」
「おっしゃる意味がわかりません」
 ホムラは、鈴を見て「ああ」と頭をおさえたのだった。