らんらんたるひとびと。～国内旅編～

　手をぎゅっとグーにする。
　あの子は、私が手を出さないとわかっていて。
　あえて挑発している。

「恋人に捨てられ、ジェイにも相手にされなかったから。今度は侯爵に手をだしたのか。そうか、どんな手を使った？　ミュゼ殿」
　にたりと笑った悪魔の少女に私は頭がぼーとするのを感じた。
　皆の視線が痛い。
　下を向くしか出来なかった。

「いい加減にしろよ、カハナ」

　力強く言ったのは、カハナの近くに座っていたジェイだ。
　額に走る汗をぬぐいながら、ジェイを見た。
　ジェイは怒っている。
「ミュゼは俺にとって仲間だって言っただろ？　幼い頃からずっと一緒だった。仲間であり、家族なんだ。ミュゼを傷つけるのは俺の家族を侮辱するのと一緒だ」
　ジェイは正座していた足を崩してあぐらをかいた状態になった。
　すると、白雪姫がすっと立ち上がった。
「おいらにとっても、ミュゼは仲間だし、家族みたいなもんだ。おいらは、捨て子だからこの中ではいっちばん身分が低いし階級も低い…卑しい存在だ。カハナちゃんに食い逃げだの悪口言われても仕方ないかもしれないけど、さすがに…さすがに限度ってもんがあるだろ？」
　涙目の白雪姫がかっこよく見える。
　こんなの人生で初めてのことだ。

　ジェイに怒られるとは、思っていなかったのだろう。
　口をぽっかりと開けていたカハナだったが。
「うっ…」と呻き声を開けたかと思うと。

「ジェイのばか―――――――――――――――――――――――――――」

　国中に響き渡るのではないかと思うくらいの大声で叫んで。
　ボロボロと泣き出した。