鈴様の故郷である、ケリー侯爵の領地に着々と近づいてくる。
 北部のドラモンド侯爵の領地と比べると、南部は気温が1~2度高い。
 徐々に空気が変わるのを感じながら。
 私たちは目的地に進んで行く。
 2ヵ月以上経っても。
 私たち6人全員が仲良くなることはない。
 口を酸っぱくして言えば、これは任務なのだ。
 国家騎士団である私たちと、ドラモンド侯爵側の人間と仲良くなる必要はない。
 そういう友好関係は(ウエ)が築き上げればいいのだから。

 平和な国、それがティルレット王国。
 戦争で知った海外での生活や実情。
 いかに、この国が平和で穏やかな空気が流れているかっていうのは、よくわかってる。
 だからこそ、この国は狙われる。
 
「いやあ、ここまで来ると胸がドキドキしちゃうんじゃなあい?」
 白雪姫が人差し指で、つんっとジェイの頬に触れた。
 ジェイは「うっせー」と白雪姫を睨む。
 2ヵ月を超えた旅は、ようやく目的地に近づこうとしている。
 海風を感じながら、白雪姫はジェイをからかってスキップしている。
「ジェイ様のお知り合いでもいるのでしょうか?」
 事情を知らない、シナモンが首を傾げる。
 ケリー侯爵家に向かう途中にある、ある(、、)場所には絶対に寄らなければならない。
 ジェイは照れくさそうに、
「まあね」
 と言った。
「ジェイの彼女が住んでるんだよお」
 と大声で白雪姫が言ったので。
 後方にいたホムラさんが「むっ」と声を漏らして、こっちを睨んでいた。
 意味がわかっていない鈴様はきょとんとしている。

「これから、向かうのは海の一族が住む村ですよね? ということは、ジェイ様の想い人という方は…」
「ジェイの彼女は海の一族。それも、巫女様」
 白雪姫が得意気に話すと。
 ぼそりとホムラさんが「巫女様?」と呟いた。
 シナモンは「まあ、まあ!」と感嘆の声をあげる。
「巫女様というのは、結婚できるものなのですか?」
「シナモンちゃん、詳しいねー。そうなんだよ、巫女様だからねえ」
 え、シナモン。突っ込むところそこなんだ。

 口をあんぐりと開けてシナモンを見てしまう。
 きっと、シナモンはジェイの彼女を見ても驚かないと思う。
「海の一族といえば、鈴様のおばあさまが…」
 と、ホムラさんはホムラさんで鈴様と会話している。
「ああ、祖母は海の一族だった」
 へえ…。
 2人の会話を聞きながら、なるほどと頷く。
 鈴様がティルレット人離れした顔立ちなのは、海の一族の血を引いているせいなのか…
(だから…)
 この前、私の本当の姿を見られた時。
 鈴様はすぐに納得してくれたのか・・・?