振り返りたくもない、過去の光景が現れる。
 幼い頃。
 騎士団学校に通っていた時の厳しい訓練。
 卒業。
 そして、初めての戦場…

 息が出来なくなって。
「はあっ」と声をあげて。
 自分の声にビックリして目を覚ました。
 壁によりかかって。
 両足を抱えて寝ていたつもりが。
 足を伸ばして。
 ジェイの肩の上に頭を乗せていた。
 ビックリして、上半身を起こすと。
 部屋は、暖炉のあかりだけで、真っ暗だった。

 自分が、小屋に泊まっているというのを思い出すと。
 良かった…という思いで、どっと疲れが押し寄せる。
 暑くないはずなのに、身体はしっとりと汗をかいている。
 それが、気持ち悪い…と思った。
「ミュゼ様、どちらへ?」
 立ち上がった私に、シナモンが小さな声で言った。
「ちょっと、お手洗い。ついでに、ちょっと…長くなるかも」
 と、もじもじしながら答える。
 ドアを開ける際、ちらりと暖炉の前を見ると。
 鈴様は眠っていて。
 ホムラさんがぎろりとこっちを睨んできた…ように見えたので。
 慌てて、外に出た。

 外は、真っ暗だけど。
 雨はやんで、空を見上げればお月様と無数の星が見えた。
 湿度を含んだ重たい空気を吸い込んで。
 ランタン片手に、歩き出す。
 夜だし、見知らぬ土地ゆえに遠くまで行くことはできない。

 小屋から少し離れたところにやって来ると。
 適当に転がっている岩に座り込んだ。
 なんだか、嫌な予感がして髪の毛を触ると。
 短いはずの髪の毛が胸辺りまで伸びている。
「元の姿に戻っっちゃったか」
 思わず出た独り言。

 普段は、短髪なはずなのに。
 元の姿の私は金髪で髪の毛が胸元まである。
 騎士団学校に入学した際、ある人が魔法をかけてくれた。
 私が見た目でいじめられないようにって。
 この魔法の解き方は、簡単だ。
 自分が元に戻りたいと念じれば、すぐに元の姿に戻ることができる。

 ただ魔法は完璧じゃない。
 病気や怪我、今みたいに身体が弱まると勝手に魔法が解けて元の姿に戻ってしまう。
 暫く待ってみたけど、戻る気配はなく。
 あまり外にいたらシナモンが心配するだろう。
 ポケットに入れていたスカーフを取り出して。
 頭に巻くしかない。
 ホムラさんや、鈴様がいなけりゃ。
 このまま戻ってもいいんだろうけど。
 面倒臭い。

「おいっ」

 男の低い声が聞こえたと同時に。
 首筋に何かが当たりそうな予感がした。

「ここで、何をしている」