ホムラさんは下を向いて黙ったかと思うと。
「大変なことになった」
 とだけ、言った。
 いつも、こっちが迷惑をかけていたけど。
 ついに、鈴様がやっちまった日が来たか…と頭をおさえる。
 あのおめでたい性格で今まで、トラブルが起きなかったこと自体、不思議で奇跡だった。
「店に文句言ったとか、誰かを怒らせたんですか?」
 どう見ても、同い年にしか見えないホムラさんに対して。
 ジェイは丁寧な口調で質問する。
「いや…ご婦人に気に入られて、連れ去られた」
「は?」
「え?」
「まあ!」
 シナモンだけが、感嘆の声をあげたのは何故なのか…。

 ホムラさんの話によれば、こうだ。
 ドラモンド侯爵の知人である伯爵家に挨拶に行ったところ。
 ちょうど、パーティーが開催中だったそうで。
 客人の1人であるご婦人に鈴様は気に入られ、「私の相手をしろ」とどこかへ連れて行かれそうになった。
 てっきり、精神年齢が赤ちゃんの鈴様のことだから婦人に失礼なことでも言ったのかと思いきや、さすがにドラモンド侯爵の知り合いの家なので。大人しくしていたらしい。
 そこで、ホムラさんが「鈴様、奥様に怒られますよ」と。
 …とっさに、嘘をついたとか。
「そうしたら、その婦人は激怒して。『こんな美男子の奥方なのだから、さぞかし美人なのだろう! 連れてこいやあ』と吠えた」
 淡々と語る、ホムラさんに。
 シナモンだけが「まあまあ!」と目をキラキラと輝かせて聴き入っている。
 私とジェイは、げっそりとしながら聞いていた。
「つまり…、誰かがあの坊ちゃんの奥様のフリをして迎えに行けと?」
 要約したジェイが、頭を抱えながらホムラさんに言った。
 ホムラさんは黙って頷く。
 ホムラさんは旅の間、黒いマントをはおって。
 頭部はフードですっぽり埋もれているのだが。
 表情を見る限り、しょうもない…という表情が見えた。

 ジェイは私を見て。
 シナモンは手を合わせて、私を見た。

「…まじ?」