ドラモンド侯爵は、にっこりと笑っている。
「ツバキの姪御さんは国家騎士団に所属している上に、ピアニストとして全国を巡り歩いているそうじゃないか。そんな女性なんて滅多にいないさ」
 …やっぱ経歴詐称してるのバレてる。
 ツバキ団長を見たけど、ツバキ団長は無表情だ。
 姪じゃないのは、最初からバレているはずなのに。
 あえて、「姪」と言うことで、ツバキ団長に嫌味を込めているのだろう。
「数か月ほど、お嬢さんと鈴が国内を旅してもらえたらいいなと思ってね」
 …嫌だ。

 目を見開いて、ツバキ団長に助けを求めるが、ツバキ団長は黙ったままだ。
「ああ、心配しなくても。2人だと大変だからね。お嬢さんはうちに来た時のメンバー…護衛2人と侍女の子を連れてきていいからね。鈴のほうはホムラだけ付けるから」
「そんな・・・恐れおおきゅ…」
 喋ろうとすると、ドラモンド侯爵は、私をじっと見てくる。
「お嬢さんは普段通り、礼拝堂でピアノを弾けばいい。それに仲間がついてくればいいだけさ」
「だ、だんちょお…」
 再度、ツバキ団長を見ると。ツバキ団長はだんまりを決めたまま。
「ま、本心を言うと。鈴と疑似恋愛してほしいというのが一番の願いかな」
 ギジレンアイ。

 鈴様を見ると、鈴様とばちっと目線が合った。
 いや、顔はいいしスタイルいいし。
 でも、見た目だけじゃん。

「うちの領地から南部のケリー家をゴールとしよう。みんなで旅をしてもらって鈴に色んな経験をさせてほしい。旅費はこちらで出すから。そんな難しいことじゃない」
「この子に危険なことは及ばないだろうな」
 ツバキ団長が言ったのは、それだけだった。
 …え、この任務を受ける気なの?