ティルレット王国は、晴れの国だと言われている。
 日中に雨が降ることは滅多になかった。
 雨が降るとすれば、いつだって夜だった。
 国中を旅している私には、あの村で何が起きたのかを理解するのには苦しんだ。
「竜巻!? そんなピンポイントで竜巻って起きるの?」
 あの村をすぐに、脱出して。
 私たちは山の中を歩いていた。
 1時間ほど歩いて休憩しようと岩に座り込んでジェイと白雪姫、シナモンの4人でのお喋りだ。
 白雪姫による盛大な失態によって、旅は中止になるかと思いきや。
 私たちの側に鈴様とホムラさんがいる。
 鈴様は地べたに座るのが嫌らしくて、「ホムラ、なにか敷いてくれ」と命令している。

「まあ、ないとはいいきれないんじゃねえか。実際、倉庫が崩れてたろ」
 ジェイは浮かない顔で言った。
 勝つと信じて疑わなかったジェイがあっさりと負けてしまった手前、目を合わせてくれない。
「混乱に生じて、アイツ…撃ったんだろ」
 ホムラさんをちらりと見て、ジェイが言った。
 あの、銃声は…やっぱりホムラさんだったのか。
「なんで、村の人達が消えたんだろ」
 最早、怪奇現象にしかならないあの出来事を何度思い返しても理解に苦しんだ。
「ま、考える必要ないっしょ。俺らにはさ関係のないこと」
 そもそも、事件の発端はおまえだというのに…
 私は白雪姫を思いっきりデコピンしてやった。
 白雪姫は「痛いわよお」とぎゃーぎゃー文句言う。
「ちゃんとシナモンに謝りなさいよ。酷い目に遭ったんだから」
「シナモンちゃん、大丈夫だったあ。おいらも見たかったよ(、、、、、、、、、、)
 脳内で、ぶちっと怒りの回線が切れる男がすると。
 私は白雪姫をグーでパンチしていた。
「シナモン、もう無理はしないでよ」
「大丈夫ですわ。助けてもらえるってわかっていましたし」
 ニコッと笑ったシナモンは、あの村の出来事を何とも思っていないようだった。
 その無垢な表情を見ていると、ぞっとするのは…
 この子は、過去にもっと酷い目に遭っていた…という確信だった。

 はじめから。
 ドラモンド侯爵の目的は、あのキモ男の暗殺だったのか…
 それとも、単純にホムラさんは助けてくれただけなのか。
 どうして、あの人は助けてくれたんだろう。

 考えるほど、わけわかんなくなってきたので。
 考えるのをやめた。
 この旅に裏があるのは、わかっている。
 でも、それを推測するだけの頭の良さは…私にはないんだから。

 身体をぼっこぼこにされた白雪姫と。
 色々とダメージを喰らっているジェイを見て考えて。
 寄り道をすることに決めた。
 ちょうど通り道だし。

 辿り着いた山中にある村は、何度かお世話になっているところだ。
 我が物顔で、案内して。
 一軒の顔見知りの店に立ち寄るが。
 そこで、しまったあああ…というピンチに追いやられる。
「生憎ですが、お部屋は一部屋しか空いてないもので」
 女将の言葉に「ええええええ」と絶叫した。
 こんな山の中に誰が来るのよ…と言うと。
 女将はニコリと微笑むだけだった。
「他の旅館は空いてませんかね?」
 ジェイが言うと、女将は首を横に振った。
 私とジェイは、黙ってお坊ちゃんを眺めた。
 ホムラさんは察したのか、
「鈴様、ここにいる全員と一緒に雑魚寝ですが大丈夫ですか」
 いつかは、相部屋になるかとは思っていたけど。
 こんなに早いうちに、こうなるとは思っていなかった。
 絶対にお坊ちゃんのことだ。
 嫌だ、庶民と寝れるかと喚き散らすのが目に見えている。
「部屋がないのなら、仕方なかろう」
 …想像を超える坊ちゃんの返事に、「えっ、頭大丈夫?」と思わず言ってしまった。