鈴の言葉がよっぽど大きかったのか。
 遠く離れた殿下が、ぎろりと「幽霊?」と言って鈴たちを睨んできた。
 驚いたとはいえ、ここは城内。
 目の前には殿下。
 鈴は自分の取返しのつかない失言に青ざめていく。

「おじさま、彼はわたくしがあまりにも美人だから驚かれているようですわ」
 ふんわりと笑う女性に。
 殿下は怒ったような表情をすぐに変えて笑顔になった。
「そうか、そなたは世界で一番美人だからな。驚かれるのも無理はない」
 よほど溺愛しているのだろうか。
 デレデレと笑う殿下の姿に、鈴は悪寒を覚えた。
 だが、悪寒はさっきからずっと続いている。

 3ヵ月前、確かに彼女の亡骸を見たはずなのに。
 彼女は堂々と立って、生きているではないか。
 しかも、殿下の隣に立っている。
 他人の空似にしては、あまりにも似すぎではないか。

 金色の美しい髪に、青い瞳は殿下と同じ美しい目の色だ。
 殿下の姪という女性はゆっくりと、階段を降りてきた。
「お久しぶりですね。皆さん」
 一体、死んだはずのミュゼが何故ここにいるのか。
 鈴は発狂するのを必死でおさえつけながら。
 彼女の顔を凝視することしか出来なかったのであった。


 つづく。