鈴がドラモンド侯爵の養子になってから、一度だって反抗したことはなかった。
 世間では反抗期や思春期…なるものがあるそうだが。
 鈴にとっては、一切そういった時期はなかったはずだ。

 悲しみのどん底にいた自分を救ってくれたのは、家族でも兄たちでもない。
 ドラモンド侯爵たった一人だけだ。

 四男坊である鈴は、爵位を継げるわけではない。
 わかっていたことだ。
 男兄弟が多い場合、養子に出される話は珍しくないそうだが。
 まさか、名門のドラモンド侯爵家から声をかけられるのはケリー家からすれば、天地がひっくり返るような幸運の話だった。

 自分がケリー家に残った場合、兄たちに迷惑をかけるかもしれない。
 肩身の狭い思いをするかもしれない…
 そう思った時期があったが。

 10年ぶりに訪れた生家は。
 酷く居心地が悪い。
 両親は、結局のところ。
 自分を売ったのだから。